大阪大学サステイナビリティ・サイエンス研究機構(RISS)は、サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)とともに、3月7日、8日の2日間、「持続可能な産業社会形成」をメインテーマとしたシンポジウムを開催し、両日で400人の多くの参加者を数えた。北海道洞爺湖サミットを7月に控えた環境等をテーマにした同シンポジウムへは、メディアの関心も高く、日経、読売、毎日、毎日放送等、主要メディアが挙って報道を行い、盛況のうち終了した。
1日目(3月7日)は、「産業社会を持続させるためのフィロソフィ」をテーマに実施。151人の参加があった。シンポジウムでは、大阪ガス株式会社の中谷秀敏副社長、国際文化研究センターの山折哲雄名誉教授、本学の鷲田清一総長による講演が行われた。
  
2日目(3月8日)は、「環境再生による持続可能な地域づくり」をテーマに開催し、午前中にはIR3Sフラッグシッププロジェクトの研究報告を、午後には国際シンポジウムが行われた。研究報告会では87人が参加し、東京大学大学院の花木啓祐教授、北海道大学の田中教幸教授、本学RISS兼任教員の梅田靖教授の三氏が報告を行った。国際シンポジウムでは221人による参加のもと、尼崎市の白井文市長のご挨拶の後、早稲田大学の伊藤滋教授による基調講演、ゲルハルト・ゼルトマン氏によるIBAエムシャーパーク事業(ドイツ)、ビルバオ市副市長のイボン・アレッソ(スペイン)の地域と都市の再生の取り組みの紹介があった。
講演後のパネルディスカッションでは、積水ハウス株式会社の伊久哲雄常務、兵庫県庁の本井敏雄・まちづくり局長、IR3S副機構長の武内和彦東京大学大学院教授を加えて行われた。
  
  
シンポジウムを振り返ると、山折名誉教授は、講演で日本列島人の倫理や行動様式は、絶えず外部から来る文明を自分の背丈に合わせて受容し、そこに「二重帳簿的」な構想を自ら作っていくことで、生き延びていくものであることと説明された。続き、鷲田総長は、今の「豊かな社会」が迎えた危機は、「生きるということの限界が見えなくなること」にあるとし、「無限の暗示」を以って豊かさがあることを力説された。
翌日、伊藤特命教授は、低炭素化を安全保障の観点から重要視した上で、尼崎では、「公」と「私」が共にある目的に対して仕事を進める「協」の概念を以って、工業都市の新しい姿を示しながら低炭素化に取り組むべきとの方向性を強調。最後に、パネルディスカッションを終えるにあたり、産業地域の再生に向けた課題の解決のためには、産官学民が連携する必要があることを参加者全員一致で確認した。また、持続可能な社会実現のため、阪神エリア、エムシャー流域、ビルバオの取り組みを発展・交流させることについても確認した。
以上を、地域社会と産業界との関係の再構築という観点から捉え直すと、具体的な取り組みとしては、先駆的なモデルを示しつつそれに協働で取り組むということになるのではないか。しかし、日本社会の内部にあっても、山折先生の言う「尺度」を一つしか用いないがために、排除や無理解が起こり、協働を阻むことが容易に想定される。実証は困難だが、日常的に起こっていることであると思う。鷲田総長の言う成熟した社会における市民の条件の一つ、「自分の限界が見えること」をコミュニケーションの現場に当てはめたとき、これは他者との関わり合いの中に見えるものではないだろうか。
「限界」を見失わずに複数の「尺度」を受け止めていくことで、「無限の暗示」を「協」の成果に見ることができるように思われる。この動きは、まさに産業社会を持続可能へと導く駆動力に相当するのではないだろうか。
今回のシンポジウムが関西圏、兵庫県、尼崎市の持続可能な社会形成に少しでも寄与することを願って止まない。多分、今回参加してくださった多くの参加者の方も、同じような気持ちを抱いていたからこそ、我々主催者とその場を共有させることができたのではと強く思っている。 持続可能な社会を実現させる原動力になると確信している。
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